イノベーション人材のスキルセット

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i.schoolの修了式が3月26日にありました。i.school修了生が1年間に習得したことの振り返りワークショップを行っている間、i.school生が身に付けるべきことを自分なりに整理してみました。

イノベーション人材に必要な3要素は、スキルセット、マインドセット、モチベーションといつもi.school生に話しているのですが、スキルセットの中身を整理しておいた方が良いと思ったからです。スキルセットは次の5つに分類できると思います。

  1. イノベーション・ワークショップのプロセスをデザインする能力
    創造性が求められる課題を与えられた時、アウトプットの質を高める作業プロセスをデザインすることが出来るようになることはi.schoolの教育目標の一番地に置かれています。アイディア出しまでの前半については何とか方法論を構築できたように思いますが、後半の試行錯誤についてはやるべき事がいろいろあると考えています。
  2. 概念化の能力
    複数の「個別」に存在する構造的類似性、すなわち「普遍」を見つけ、カテゴリーを形成し、その構造的類似性を上手く表現するタイトルを付けることは基本的な能力です。私の研究室の学生が行っている研究では、概念化におけるパーフォーマンスと、発想されるアイディアの新規性の間には強い相関があることが指摘されています。
  3. アイディアを評価する能力
    イノベーションワークショップにおけるアイディアは、新規性、インパクト(影響力、有効性)、実現可能性という3つの評価基準で評価されます。新規性の評価はイノベーションワークショップ特有であり、評価方法は明確とは言えません。審査員の評価が大きくばらつく傾向があるように思いますが、それは新規性の評価が難しいことと、3つの評価基準の重み付けが人によって大きく異なるためであると思われます。
  4. 自分の気持ちをコントロールする能力
    以前の投稿「ハーモニーのメリットとデメリット」に書いた通り、調和的アプローチは、メンバーの満足度を向上させますが、結果の質は批判的アプローチより低下してしまいます。アイディア出しでは調和的アプローチ、アイディアの絞り込みでは批判的アプローチというように使い分けることが重要です。論理的な検討を心理的批判にならないように行える「心」を育てることがイノベーション教育の課題です。
  5. メタ認知の能力
    ワークショップのメンバーとして参加しながら、時としてコーチのように自分やチームメンバーの活動を見つめるメタ認知の能力は、経験学習の効果を高め、イノベーション人材としての能力を向上させるために不可欠です。イノベーション人材からイノベーション・ワークショップのファシリテーターやイノベーション人材を活かすミドルクラス人材に成長するためにも有効な能力です。

i.school の教育においてこれまで最も重視してきたのは1.のワークショップ・プロセスをデザインする能力です。2.の概念化能力を鍛えるトレーニングはi.schoolのワークショップに織り込まれていますが、もっと力を入れても良いと思います。

3.の評価能力はイノベーション教育においてかなり重要な要素ですが、これまで意識的にここをデザインしてきませんでした。2015年度はアイディアの評価能力にフォーカスを当てたいと思います。熟達化の研究がかなりなされていますが、熟達者の特徴の一つが評価能力にあることが明らかにされています。新規性の評価は難しく、特にP-creativity (psychological creativity) と H-creativity (historical creativity) の区別をした上で評価することが求められます。これについては別の機会に触れたいと思います。

4.自分の気持ちをコントロールする能力ですが、グループワークにおいて楽しい雰囲気を創り出し、他のメンバーの能力を引き出すと同時に、提案されたアイディアを厳格に評価することができなくてはなりません。そのためのトレーニングは是非2015年度のワークショップに取り入れたいと思います。

以上のことは、i.schoolの修了生へのメッセージとしてお話しさせていただきました。話し損なったことがありますので、ここに書き記しておきます。

マインドセットを変えるのはとても難しいことです。例えば、「新しいことにはリスクがある」という信念を、「新しいことにはチャンスがある」という信念に変えるにはどうしたらよいのでしょう。両者はどちらも正しいので、論理的に説得しようとしても難しいでしょう。信念には情動が結びついているからです。論理は「頭」の問題ですが、信念は「心」の問題です。1年間のi.schoolでの体験を通じて、i.school 生のマインドセットは変化したものと思います。1年間の体験を経て、やっとシフトしたとも言えるかもしれません。

i.schoolの修了生がこれから社会に出ると、周りのほとんどの人は普通のマインドセットを持っているはずです。論理で攻めてもなかなか「心」には響かないのではないでしょうか。ではどうしたら良いのでしょうか。

マインドセットは体験を通じて形成されます。相手を説得する論理ではなく、相手の「心」を動かす体験をデザインしてはどうでしょう。i.schoolで学んだ方法を使えば、効果的な体験を提供することができるでしょう。

i.school生が社会に出て、i.schoolで学んだ方法を活かして輝いてくれることをこころから祈っています。

 

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